本記事の対象者

ジャンプ力や瞬発力を伸ばしたくてサプリメントを検討している方。HMB・クレアチン・β-アラニンなど、どれを選べばいいか迷っている方。
瞬発系の競技では、下肢の筋パワーやジャンプ力が成績を左右します。そのためのサプリメントは数多くあり、どれが相対的に有望なのかは選ぶうえでの関心事です。
2026年に Journal of the International Society of Sports Nutrition に掲載されたネットワークメタアナリシス1は、119研究を集めて、サプリメントを横並びで比較しました。
結論から言うと、HMBの体重あたりピークパワーは、複数の感度分析で比較的安定していたと報告されています。一方で、1,636通りの比較のうち1,564通りは確実性が「非常に低い」と評価されています。

筆者の紹介

筋トレ好きのエンジニアです。技術評論社『Software Design』で「エンジニアのためのやる気UPエクササイズ」を2年間(全26回)連載し、Xのスペースで毎晩21時から20分の家トレを配信する「みんトレ」を6年ほど続けています。

この記事について:要旨の範囲で書いています

この論文は PubMed Central に全文が掲載されておらず、出版社のサイトにもアクセスできませんでした。そのため本記事は論文の要旨(アブストラクト)に書かれている範囲だけをもとにしています。
本文にある詳しいサブグループの結果、各サプリメントの用量、ランキングの数値などは確認できていないので、本記事には書いていません。数値はすべて要旨に記載されたものです(「約96%」という割合だけは、要旨の比較数から本記事で計算したものです)。

どんな研究か

要旨から分かる研究の条件は以下の通りです。

  • PubMed・Web of Science・Embase・Cochrane Library を検索(最終検索は2026年9月8日)
  • 対象は身体活動やトレーニングの習慣がある健康な人を対象にした、ランダム化された並行群間試験とクロスオーバー試験(2026年8月31日までに英語で発表されたもの)
  • 採択されたのは119研究
  • アウトカムごとに4つの独立したネットワークを構築: ピークパワー(47研究)、体重あたりピークパワー(33研究)、垂直跳び(31研究)、反動つき垂直跳び(CMJ、44研究)。1つの研究が複数のネットワークに入ることがある
  • ベイズ型のランダム効果モデルで、変化量の平均差(MD)と95%信用区間・予測区間を算出
  • バイアスのリスクは RoB 2、確実性は CINeMA で評価。PROSPERO に事後登録(CRD420261283835)

この記事の数字の読み方

  • ネットワークメタアナリシスは、A対B、B対Cのように直接比べた試験をつなぎ合わせて、直接比べた試験のないA対Cまで推定する手法です。比較の網をネットワークと呼びます。
  • 平均差(MD)は、プラセボと比べてどれだけ数値が変わったかを、元の単位(ワットやセンチメートル)のまま表したものです。
  • 95%信用区間(CrI)はベイズ型の解析での推定の不確かさの幅です。この幅が0をまたいでいる場合は「差があるとは言えない」と読みます。
  • 予測区間は「次に同じような試験を1本行ったら、結果がどのあたりに着地しそうか」の範囲です。
  • 確実性(CINeMA)は、その比較の結果をどれだけ信頼してよいかを「高・中程度・低・非常に低」の4段階で評価したものです(4段階の説明は本記事の補足で、要旨に出てくるのは中程度・低い・非常に低いの3つです)。

結果:プラセボより良好な結果が報告されたもの

要旨に数値が記載されている、プラセボと比べた結果は以下の通りです(いずれも95%信用区間が0をまたいでいません)。

ネットワーク サプリメント 平均差(95%CrI) 補足
ピークパワー HMB +64.70W(19.15〜110.50) 確実性「中程度」
体重あたりピークパワー HMB +0.84W/kg(0.42〜1.28) 確実性「中程度」。複数の感度分析で比較的安定
垂直跳び 鉄 +6.81cm(0.84〜12.83) 直接比較した研究は1件のみ
CMJ ベタイン +3.72cm(1.24〜6.18) —

このほか、要旨では次のサプリメントも挙げられていますが、数値は記載されていません。

  • ピークパワー: β-アラニン、体重あたりピークパワー: クレアチン、ビタミンD(「良好な効果が観察された」とだけ書かれ、信用区間についての記載はありません)
  • CMJ: パルミトイルエタノールアミド、カフェイン+ロディオラ・ロゼア、クレアチン、複数成分のサプリメント、カフェイン(「95%信用区間が0を含まなかった」と書かれています)

ただし著者は、HMBの体重あたりピークパワー以外の良好な比較の一部は、予測区間が0を含んでいたり、感度分析で効果が弱まったりしたと書いています。要旨からはどの比較がそれに該当するかまでは分かりません。

1,636通りの比較の大半は「非常に低い」

著者は結論で、大部分の比較の確実性が非常に低かったと書いています。内訳は以下の通りです。

確実性 比較の数
中程度 17
低い 55
非常に低い 1,564

全体の約96%(1,564÷1,636、本記事で計算)が「非常に低い」でした。「中程度」と評価された17件の中に、HMBとプラセボの比較(ピークパワー・体重あたりピークパワーの両方)が含まれています。

著者は結論で、直接比較の根拠が限られ、大部分の比較で確実性が非常に低いと明言しています。鉄の垂直跳びのように、0をまたがない結果でも直接比較した研究が1件しかないものがあります。

著者が釘を刺していること

要旨の結論には、読み方についての注意が書かれています。主なものを2つ挙げます。

1. ネットワークどうしの違いから「指標によって効き方が違う」とは言えない
たとえば「HMBはピークパワーで、ベタインはCMJで0をまたがない結果が出た」という並びを見ると、サプリごとに得意な指標があるように見えます。しかし著者は、ネットワークの間の違いから、指標の種類がサプリの効果を左右するとは言えないと書いています。要旨は理由までは述べていません(本記事の補足として、4つのネットワークはそれぞれ含まれる研究が異なる点は押さえておく必要があります)。

2. 順位だけで個人のサプリ選びを決めてはいけない
著者は「順位だけを根拠に、個人に合わせたサプリメントの摂り方を決めるべきではない」と明記しています。要旨は理由を述べていませんが、一般に、ネットワークメタアナリシスの順位は「上位に来やすいか」の目安であって、効果の大きさや確実性そのものではありません。

あわせて、体重あたりピークパワーでのサプリの効果と、トレーニングレベルや競技種目との関連も探索的に観察されていますが、根拠が少なく、比べる条件の分布も偏っていたため解釈は限られるとされています。

この研究の限界

要旨から読み取れる限界は以下の通りです。

  • 直接比較が少ない: 要旨は直接比較の根拠が限られていたと書いており、鉄のように直接比較が1件しかないものもあります
  • 確実性がほとんど「非常に低い」: 1,636通りのうち1,564通り
  • 登録が事後: PROSPERO には事後に(遡って)登録されています
  • 対象が身体活動のある健康な人とアスリートに限られる: 著者は、結果を研究された集団と摂取方法の文脈の中で解釈すべきだとしています

本文の限界の節は確認できていないため、これ以外の限界が挙げられている可能性があります。

実践的にどう読むか

以上を踏まえて、この研究から言えるのは次の範囲です。

  • HMBの体重あたりピークパワーは、複数の感度分析で比較的安定していたと報告されています(+0.84W/kg、確実性「中程度」)
  • HMBのピークパワーも確実性は「中程度」でした(+64.70W)
  • ほかに0をまたがない結果が出たサプリもありますが、予測区間が0を含んだり、感度分析で弱まったりしたものがあります
  • 比較の約96%は確実性が「非常に低い」で、順位だけで選ぶことは著者自身が否定しています
  • 本記事は要旨のみをもとにしています。用量や詳しい条件は確認できていません

クレアチンは体重あたりピークパワーとCMJの両方で名前が挙がっています。筋トレと組み合わせたクレアチンの効果についてはクレアチンで増えた体重は水太りなのか?で、63試験を統合した別のメタアナリシスを詳しく扱っています。

出典



注釈・出典

  1. Effects of dietary supplements on lower-limb power and jump performance in physically active individuals and athletes: a systematic review and Bayesian network meta-analysis