本記事の対象者

セット数や頻度をどこまで増やすか迷っている方。「もっとやれば伸びる」のか「やりすぎても無駄」なのかを知りたい方。限られた時間で最大の効果を得たい方。
筋トレのボリューム論争は長く続いています。「週10セット以上」「いや週20セットまで伸びる」といった話を聞いたことのある方は多いはずですが、こうした議論はセット数だけを切り出して比べていることがほとんどです。実際のプログラムでは、セット数・レップ数・種目数・強度・頻度・期間が絡み合っています。
2026年に Sports Medicine に掲載されたシステマティックレビュー+メタアナリシス1は、これらを掛け合わせた「総量(dosage)」という1つの数値を作り、157本の研究から筋力との関係を非線形モデルで解析しました。
結論から言うと、総量と筋力の伸びには明確な用量反応関係があり、ある地点を超えると頭打ちになると報告されています。ただしこの結果は、大部分がトレーニング未経験者を対象とした研究から得られたものです。

筆者の紹介

筋トレ好きのエンジニアです。技術評論社『Software Design』で「エンジニアのためのやる気UPエクササイズ」を2年間(全26回)連載し、Xのスペースで毎晩21時から20分の家トレを配信する「みんトレ」を6年ほど続けています。

どんな研究か

この研究の特徴は、トレーニングの処方変数を1つの合成指標にまとめたことです。

総量(RT dosage, 単位はau=任意単位)= セット数 × レップ数 × 種目数 × 強度(%1RM。1RM=1回だけ挙げられる最大重量に対する割合) × 頻度(週あたり回数) × 期間(週)

研究の条件をまとめると以下の通りです。

  • 4つのデータベースを系統的に検索し、動的筋力(RM測定や等速性の機器で測る、動きを伴う筋力)を測定していて、処方変数のデータが十分にあるRCTのみを採用
  • 適格基準は18歳以上の健康な成人を対象に、4週以上のトレーニング介入を運動しない対照群と比べた試験であること
  • 解析に足るデータを含んでいたのは157本
  • 解析対象の部位は大胸筋と大腿四頭筋。小さい筋群は筋力の報告が不十分で除外
  • 対象者は大部分がトレーニング未経験者。トレーニング経験者を含む研究も採用されていますが、総量を算出できるだけのデータがあったのは大胸筋で5件、大腿四頭筋で12件にとどまります
  • 「相対的な総量(au)」と「絶対的な総量(kg)」の両方でモデルを構築
  • 二次の非線形メタ回帰で、量・強度・期間・総量を連続変数、頻度・性別・年齢をカテゴリ変数として解析。ここでいう量(volume)は1回のセッションのセット数×レップ数×種目数で、それに強度・頻度・期間を掛け合わせた総量(dosage)とは別の変数です

「相対」と「絶対」の違いを補足しておきます。相対は強度を%1RMで表したもの(80%1RMなら「80」を掛ける)、絶対は実際に挙げた重量をkgで積み上げたものです。同じ5セット×5レップでも、ベンチプレスの1RMが40kgの人と100kgの人では絶対量がまったく違います(絶対量は体重ではなく、ベースラインの1RMと処方された%1RMから推定されています)。

この記事の数字の読み方

このあとの表と図に出てくる用語を先にまとめておきます。

  • RCT(ランダム化比較試験)は、参加者をくじ引きのように分けて条件を比べる試験です。システマティックレビューは決めた手順で該当する研究を網羅的に集める作業、メタアナリシスは集めた研究の結果を統計的に統合する手法です。
  • 1RMは1回だけ挙げられる最大重量です。%1RMは、その何%の重さを使うかを表します。
  • 有意(p<0.01)は「偶然のばらつきだけではこの結果は起きにくい」という統計上の判定です。効果の大きさや実用上の重要さを表す数値ではありません。
  • 95%信頼区間は推定の不確かさの幅です。幅が広いほど、その推定は当てにしにくくなります。
  • メタ回帰は、研究ごとの条件(この研究では総量・強度・期間など)と結果の関係を、研究をまたいで当てはめる解析です。非線形は、その関係を直線ではなく曲線で当てはめることを指します。
  • 区分回帰は、曲線を途中で区切って区間ごとに傾きを推定する手法です。傾きが変わる境目を折れ点と呼びます。
  • 出版バイアスは、良い結果が出た研究ほど論文になりやすいことで全体が偏る現象です。ファネルプロットはその偏りを見るための散布図で、Eggerの検定は図の左右の非対称さを統計的に判定する方法です。
  • GRADEは、集まった研究全体の確からしさを「高・中・低・非常に低」の4段階で評価する枠組みです。

結果:伸びが鈍り始める地点と、頭打ちになる地点

全アウトカムで有意な用量反応が確認されました(p<0.01)。そのうえで、区分回帰によって曲線の傾きが変わる「折れ点」が特定されています。

部位 伸びが鈍り始める(第1の折れ点) 頭打ちになる(最終の折れ点)
大胸筋 約108,000 au 約887,000 au
大腿四頭筋 約45,000 au 約773,000 au

最終の折れ点(大胸筋の約887,000 au、大腿四頭筋の約773,000 au)を超えて総量を積み増しても、筋力が伸びる速度は維持も向上もしませんでした。原文の結論では、この地点を過ぎると筋力が伸びる速度は低下し、それ以上総量を増やしても追加の利益はないと述べられています。

興味深いのは、頭打ちの地点が部位によらず似た水準だったことです。著者は「鍛える部位にかかわらず、筋力適応は似た総量で起きる可能性がある」と述べています。

一方、絶対的な総量(kg)のモデルでは、有効な総量を推定できませんでした。折れ点の信頼区間が広く重なり合ってしまったためです。「合計何kg挙げれば伸びるか」という問いには、この研究は答えられていません。

数字を実際のプログラムに直すと

au という単位はそのままでは実感が湧かないので、著者が挙げている具体例を紹介します。(a)と(b)は相対総量の大腿四頭筋解析における平均プログラム期間である16週で計算したものです。いずれも総量という数値の大きさをつかむための計算例で、著者がこの組み方を推奨しているわけではありません。

頭打ち(大胸筋887,000 au/大腿四頭筋773,000 au)付近に到達するプログラムの例

  • (a) 5セット × 5レップ × 7種目 × 80%1RM × 週4回 × 16週 = 896,000 au
  • (b) 4セット × 15レップ × 8種目 × 55%1RM × 週2回 × 16週 = 844,800 au

この2つは、中身がまるで違うのに総量はほぼ同じです。(a)は高強度・低レップ・高頻度、(b)は低強度・高レップ・低頻度です。著者は、この2つが筋力に対して同程度の効果を持ちうると述べています。

逆に、下限側の例も挙げられています。

  • (c) 3セット × 7レップ × 4種目 × 75%1RM × 週2回 × 4週 = 50,400 au

これは本研究の適格基準の下限である4週で組んだ例として挙げられているものです。大腿四頭筋の「伸びが鈍り始める」地点(45,000 au)をわずかに超える程度の量にあたります(この対比は原文の主張ではなく、折れ点と並べてこの記事で計算したものです)。

3つの例が総量の軸上のどこに来るかを図にすると次のようになります。

相対的な総量の軸上に、大胸筋と大腿四頭筋の折れ点で区切った3つの区間と、論文中のプログラム例3つを置いた図
図1: 総量(au)と筋力の伸び方が変わる地点。色が薄くなるほど、総量を足しても伸びが返ってこなくなる区間です。(a)〜(c)は、本文で挙げたプログラム例が軸上のどこに位置するかを示しています。出典: Lyristakis P, et al. Sports Med. 2026。報告されている数値から作成したもので、原図の転載ではありません

実務的な含意としては、少なくともトレーニング未経験者では、総量の目標を満たす範囲で変数の組み合わせにある程度の自由度があるということになります。著者も「各個人が実行でき、かつ継続できる処方を作るために変数を操作すべき」と書いています。

部位によって影響の大きい変数が違った

この研究のもう一つの主題が「どの変数の影響がいちばん大きいのか」です。
ここでいう量(volume)は、前述のとおり1回のセッションのセット数×レップ数×種目数で、総量(dosage)とは別の変数です。
非線形回帰モデルでは、以下が有意な予測因子として特定されました。

  • 大胸筋(相対):量(volume)と強度(intensity)
  • 大腿四頭筋(相対):期間(duration)

つまり大胸筋では「1回にどれだけやるか・どれだけ重いか」、大腿四頭筋では「どれだけ続けるか」との関連が強く示された、という結果です。ただしこれは要旨に載っているモデルでの話です。原文の本文には、強度が大腿四頭筋の筋力(相対・絶対とも)と大胸筋の筋力(相対)に非線形に寄与するという記述があり、要点欄にも「期間と強度が一貫した予測因子と考えられる」と書かれています。どの変数の影響が大きいかは、モデルの取り方によって変わります。

さらに、変数の重要度をスコア化した解析(128通りの候補モデルから予測に寄与する組み合わせを選び、各変数の寄与度をスコアにする方法)では以下が示されています。

  • 相対的な総量で処方する場合、大胸筋の筋力には年齢とトレーニング量が重要でした
  • 絶対的な総量で処方する場合、大腿四頭筋の筋力には期間・総量・年齢が重要でした

一方、モデル平均した多変量モデルで有意(p<0.01)だったのは大胸筋(相対・絶対とも)における年齢のみでした。

なお強度は、回帰モデルでは有意な予測因子だったにもかかわらず、重要度の評価では相対的に低い位置づけでした。著者はこのねじれをそのまま報告しています。

唯一有意だった年齢は、プログラムを組むときに動かせる変数ではありません。ただし著者は、年齢とあわせて期間と量を、筋力を伸ばそうとするときに考慮する処方変数として挙げています。そのうえで「筋力発達を最適化するには、プログラムを作る際に特定の処方変数を優先すべき」と結論づけています。

この研究の限界

著者が挙げている限界のうち、読み方に直接かかわるものを挙げます。

1. 対象は大部分がトレーニング未経験者
これが最大の但し書きです。著者は要旨の段階で「この結果は主にトレーニング未経験者における相対的な筋力変化を反映しており、トレーニング経験者の絶対筋力との明確な関係は特定できなかった」と明記しています。
トレーニング経験者を含む研究も採用されてはいますが、総量を算出できるだけのデータがあったのは大胸筋で5件、大腿四頭筋で12件にとどまり、経験者と未経験者の比較は実施できていません。著者は「経験者にとって最適な総量が正確かどうかは確認できない」と述べており、長くトレーニングを続けている人にこの数値をそのまま当てはめる根拠は、この研究にはありません。

2. 総量という合成指標そのものの仮定
セット×レップ×種目×強度×頻度×期間という掛け算は、各変数が加算的・比例的に寄与することを前提にしています。実際には変数どうしが複雑に相互作用します(強度を上げれば量は落ちる、など)。著者は「観測された関係は統計的な関連であって、メカニズム的な因果ではない」と釘を刺しています。

3. プログラム内容についての推定が入っている
介入に含まれる全種目で1RM測定が行われ、相対強度(例: 80%1RM)で処方されていたと仮定して計算しています。実際には全種目の1RMが報告されているわけではありません。

4. 高用量・低用量のデータが少ない
モデルの推定は、1,200,000 au(相対)を超える範囲のデータがごく少ないことに制約されています。折れ点の推定にも不確実性があり、著者は特に絶対量のモデルについて「慎重に解釈すべき」と述べています。

5. 出版バイアスの兆候がある
Eggerの回帰検定でファネルプロットの非対称性が示されました(p<0.001)。ただし著者は、筋力というアウトカムの性質上、トレーニング群が非運動対照群より有利になるのは当然だとして、これによる格下げは行っていません。
なおエビデンスの質(GRADE)は当初「高」と評価され、バイアスのリスク(研究デザイン上の偏りやすさ)の懸念で「中」に格下げされたあと、明確な用量反応勾配が確認されたことで格上げされています(GRADEで格上げが認められる3条件のうちの1つ)。ただし原文には、格上げ後の最終的な評価が「高」なのか「中」なのかを明示した記述はありません。原文で確認できるのは、「高」から1段階の格下げと1段階の格上げが入った、というところまでです。

6. テンポや挙上速度は含まれていない
テンポや挙上速度は総量の計算に入っていません。データの制約と実用上の理由から、あえて除外したと説明されています。

実践的にどう読むか

以上を踏まえて、この研究から言えるのは次の範囲です。

  • 「もっとやれば伸びる」には天井があります。相対的な総量が大胸筋で約887,000 au、大腿四頭筋で約773,000 au を超えると、それ以上増やしても追加の伸びが大きいことは示されませんでした
  • 総量が同じなら、変数の組み合わせにはある程度の自由度がありそうです。高強度・低レップでも、低強度・高レップでも、総量がそろえば同程度の効果が期待できると示唆されています(トレーニング未経験者での話です)
  • 部位によって影響の大きい変数が違いました。大胸筋では量と強度、大腿四頭筋では期間との関連が強く示されました
  • これはトレーニングを始めて間もない人の話です。トレーニング経験者に当てはめる根拠はこの研究にはありません
  • 絶対重量(kg)ベースの目標は、この研究では出せていません

自分のプログラムの総量を計算してみると、上の数値との位置関係がつかめます。たとえば「3セット×10レップ×5種目×70%1RM×週3回×12週」なら、3×10×5×70×3×12 = 378,000 au。大胸筋の頭打ち(887,000 au)の手前ではあるものの、伸びが鈍り始める地点(大胸筋108,000 au)はすでに超えている領域ということになります。

なお、量を増やす方向とは別に「1セットあたりどこまで追い込むか」という論点があります。こちらは限界まで追い込まないと筋肉はつかない?追い込みの有無を比べたRCT20件のメタアナリシスで扱っています。

出典

注釈・出典

  1. The Influence of Individual Resistance Training Variables on Muscle Strength: A Systematic Review and Meta-analysis