本記事の対象者
CrossFit やサーキット形式の高強度トレーニングをしている方。ワークアウト前のカフェインに意味があるか知りたい方。
カフェインが運動のパフォーマンスを上げることはよく知られていますが、その根拠の多くは持久運動や筋力のテストから来ています。CrossFit のように、種目を組み合わせて高強度で回し続ける運動でも同じことが言えるのかを統合した研究は少なく、4研究をまとめた先行のメタアナリシスでは有意な改善は示されていませんでした。
2026年に Nutrients に掲載されたメタアナリシス1は、CrossFit を対象としたランダム化クロスオーバー試験7件を集めて統合しました。
結論から言うと、CrossFit の成績はカフェインでわずかに上回り、血中乳酸は高くなりました。一方で、心拍数ときつさの感じ方には差が示されませんでした。ただし試験は7件・103名で、参加者の大部分が男性です。
筆者の紹介
どんな研究か
研究の条件をまとめると以下の通りです。
- 対象は18歳以上の健康な成人で、CrossFit の前(または最中)にカフェインを摂る条件とプラセボを比べた試験
- 統合されたのはランダム化クロスオーバー試験7件・103名。男性90名(87.4%)・女性13名(12.6%)、1試験あたり8〜26名
- 参加者はテスト前の24〜48時間、カフェインを控えていた
- カフェインの量は体重1kgあたり約1.4〜9mg。カプセルか飲料で摂取
- レクリエーションレベルの人とトレーニング経験者の両方を含む
- 成績の指標は平均パワー・ピークパワー・完遂したレップ数など。生理的な指標は心拍数・血中乳酸・主観的運動強度(RPE)
- 成績は同じ試験から出る複数の結果を扱える3レベルモデル、生理的な指標は1試験1結果を前提にした通常のモデル(2レベルモデル)で統合
この記事の数字の読み方
- RCT(ランダム化比較試験)は、参加者をくじ引きのように分けて条件を比べる試験です。クロスオーバー試験は、同じ人がカフェインとプラセボの両方を、日を変えて順番に試す設計です。メタアナリシスは、同じテーマの試験を集めて結果を統計的に統合する手法です。
- Hedges' gは「効果の大きさ」を、単位の違う指標でも比べられるようにそろえた数値です(SMD の一種)。0が「差なし」で、0.2前後が小さい差、0.5前後が中くらいの差、0.8前後が大きい差の慣習的な目安です。
- 95%信頼区間(95%CI)は推定の不確かさの幅です。この幅が0をまたいでいる場合は「差があるとは言えない」と読みます。
- RPE(主観的運動強度)は、本人が感じた「きつさ」を数値で答えてもらう指標です。
結果:成績はわずかに上回った
カフェインとプラセボを比べた統合結果は以下の通りです。
| 指標 | Hedges' g(95%CI) | p値 | 判定 |
|---|---|---|---|
| CrossFit の成績(全体) | 0.13(0.05〜0.22) | 0.003 | カフェインが上回る |
| 血中乳酸 | 0.53(0.23〜0.82) | 0.001 | カフェインで高い |
| 心拍数 | 0.25(−0.05〜0.52) | 0.613 | 差は示されず |
| RPE(きつさの感じ方) | −0.10(−0.34〜0.14) | 0.413 | 差は示されず |
成績の効果は0.13です。著者は「小さな」効果としていますが、論文自身の基準では0.20未満は「ごく小さい(trivial)」に当たります。成績の統合に使われたのは7試験から出た18の効果量でした。
試験間のばらつきは、検出できる範囲では0%でした。ただし著者は、試験が7件しかないため、ばらつきがないのではなく検出する力が足りないだけかもしれないと注意しています。
心拍数の行には、原文の数値どうしの食い違いがあります。信頼区間 −0.05〜0.52 から計算すると p 値は 0.1 前後になるはずですが、原文は p=0.613 と報告しています。本記事は原文の数値をそのまま載せています。なお、1件の研究を除くと心拍数の差は有意になったとも報告されており、著者はこの結果が不安定だと述べています。
成績は上回ったのに、きつさには差が示されなかった
この研究で目を引くのが、成績は上回ったのに、RPE には差が示されなかったという組み合わせです。
著者は、カフェインによって脳での疲労に関する感覚の処理が変わり、より多く動いてもそれほどきつく感じなかった可能性を挙げています。血中乳酸が高かったことについては、交感神経の活動の高まりを一部反映しているかもしれないこと、また糖を分解してエネルギーを作る経路(解糖系)の寄与が大きくなり、高い強度を保てたことを反映しているかもしれないことを、それぞれ述べています。
これは研究結果の組み合わせから著者が示した解釈で、この研究自体が仕組みを検証したわけではありません。
誰で、どう摂ったときに差が出たか
成績について、条件で分けた解析も報告されています。
| 区分 | Hedges' g(95%CI) | p値 |
|---|---|---|
| レクリエーションレベル | 0.20(0.06〜0.34) | 0.005 |
| トレーニング経験者 | 0.09(−0.03〜0.20) | 0.129 |
| カプセル | 0.17(0.06〜0.29) | 0.003 |
| 飲料 | 0.07(−0.07〜0.21) | 0.308 |
差が示されたのはレクリエーションレベルの区分とカプセルの区分でした。ただし、区分どうしを比べた検定ではどちらも有意な差はありませんでした(いずれも p>0.05)。読み取れるのは「この区分では差が示された」という事実までで、「トレーニング経験者には効かない」「飲料では効かない」とは言えません。飲料を使った試験は2件しかありません。
用量についても、体重あたりの量と成績の関係は、量に比例して変わるとする直線のモデル(傾き β1=0.04、p=0.570)でも、中くらいの量で最も良く、多すぎると下がるような曲線(二次)のモデル(β2=−0.004、p=0.578)でも示されませんでした。著者は個々の試験を眺めると体重1kgあたり4〜6mgあたりで成績が良さそうに見えると書いていますが、統計的には裏づけられておらず、特定の量を最適と決める根拠はないと明記しています。
この研究の限界
1. 試験が7件・103名しかない
統合推定の精度が低く、条件別の解析・用量の解析・出版バイアスの評価も信頼性が限られます。
2. 女性が12.6%しかいない
カフェインの代謝や反応は、性ホルモンや経口避妊薬の使用に影響される可能性があります。著者は、この結果は主に男性の結果であり、女性の CrossFit アスリートには慎重に当てはめるべきだとしています。
3. CrossFit のプロトコルと指標がばらばら
ワークアウトの内容も成績の測り方も試験ごとに違うため、統合した効果の実務的な意味は読み取りにくくなっています。英語の査読論文に限っており、未発表の研究は探していません。
4. 普段のカフェイン摂取量の報告がまちまち
慣れ(耐性)によってカフェインへの反応は変わりうるのに、普段の摂取量は報告していない試験もあり、報告のしかたもそろっていませんでした。遺伝的な違いも考慮されていません。
5. 評価者の盲検化をした試験がない
成績を測る側を盲検化した試験はなく、盲検がうまくいったかを確かめた試験もありませんでした。カフェインは体感で分かることがあり、期待の影響を除けません。著者は、特に RPE のような主観的な指標で注意が要る一方、客観的な成績の指標では影響は小さいかもしれないと書いています。
6. カフェイン単独ではない試験が1件ある
1件はタウリンや炭水化物を含むエナジードリンクとしてカフェインを与えていました。ただしこの試験を除いても、統合結果はほとんど変わりませんでした。
実践的にどう読むか
以上を踏まえて、この研究から言えるのは次の範囲です。
- CrossFit の前のカフェインで、成績がわずかに上回る結果が示されました(g=0.13)。効果はごく小さく、著者も、標準化した効果量をレップ数や秒数に置き換えることはできず、実用上の重要さは不確かだと書いています
- 血中乳酸は高くなり、きつさの感じ方(RPE)には差が示されませんでした
- 差が示されたのはレクリエーションレベルとカプセルの区分ですが、区分どうしの差は示されていません
- 最適な量は、この研究からは決められません
- 根拠は7件・103名で、ほとんどが男性です
夕方以降のワークアウト前にカフェインを使う場合は、睡眠への影響もあわせて考える必要があります。運動後の回復と睡眠への影響を扱った研究はカフェインは運動後の回復を早める?睡眠は悪くなる?で、睡眠不足下でのカフェインは寝不足のときカフェインはどこまで取り返せる?で扱っています。
出典
- PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42796953/
- DOI: https://doi.org/10.3390/nu18182969
- 全文: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13610431/
注釈・出典
- Effects of Acute Caffeine Supplementation on Performance and Physiological Responses in CrossFit: A Systematic Review and Three-Level Meta-Analysis